外貨建ての死亡保険は検討に値しない

外貨建ての死亡保険は検討に値しない

「外貨建て死亡保険をおすすめされていて、入ろうか迷っている」

「保障と資産運用の両方が可能なのは良さそう」

と外貨建て死亡保険に加入しようとしている方や、

「外貨建て死亡保険を継続するべきか悩んでいる」

という方。

生命保険の営業マンや保険代理店員に、

「万一に備えながら、資産形成ができます」

「低金利の日本と違って高金利の外貨であれば、高い運用利回りが見込める」

というような説明を受けた方もいらっしゃるでしょう。

実はタイトルの通り、外貨建て死亡保険には入るべきではありません。

既に加入している方も見直した方が良い可能性があります。

この記事ではその理由と、どのように外貨建て死亡保険に向き合うべきかをお伝えしたいと思います

外貨建て死亡保険とは

外貨建て死亡保険とは、保険料を外貨で支払い(もしくは円に換算して払い込む)、保険金・解約返戻金等を外貨で(もしくは円に換算して)受け取る死亡保険です。

種類は以下です。

・外貨建て定期死亡保険
・外貨建て収入保障保険
・外貨建て養老保険
・外貨建て終身死亡保険

もし、各保険がどういう保険かわからない方は以下の記事を参考にしてください。

養老保険は以下の記事で説明しています。


終身保険は以下の記事で説明しています。


検討に値しない理由

冒頭で申し上げた通り、外貨建て死亡保険は検討に値しません。

理由は以下の2つです。

・コストが高すぎるから
・死亡保障を外貨で用意すると不確実性が増すから

では、それぞれ詳細に見ていきましょう!

コストが高すぎる

一つ目の理由は外貨建て養老保険・終身死亡保険に言えることですが、資産運用のための投資商品としてはコストが高すぎることです。

外貨建て養老保険・終身死亡保険の契約後数年の解約返戻金は、その時点までに払い込んだ保険料の総額を下回っていることがほとんどです。(これは販売等に係る手数料が最初に引かれるからです)

一般的に、ほかの投資商品では買った瞬間に元本が確実に大幅にマイナスになることはありません。

また、手数料率がわからないことも問題です。

投資信託では、信託報酬(投資信託を管理・運用してもらうための手数料)を確認することができます。

しかし、外貨建て保険の場合、手数料に不明な点が多いです(為替手数料などはわかりますが)。

ある生命保険会社Xは、一時払い外貨建て養老保険の「お客様にご負担いただく諸費用」について、以下を挙げています。なお、これらは保険料に含まれています。

・入金時の為替手数料(円で入金し、外貨に換える際に係る手数料)
・契約初期費用
・保険契約関係費用

為替手数料については、1ドルあたりの手数料がサイト上で確認できます。

また、契約初期費用も基本保険金額の〇%と記載されているので計算できます。

例えば、保険金額が10万ドルで5%の契約初期費用ならば、5000ドルが契約初期費用として保険料から抜かれるということです。

この2つは手数料を計算できましたが、3つ目の保険契約関係費用については如何ほどなのか全くわかりません。

正直、為替手数料や契約初期費用だけでもかなり手数料が割高な商品であると感じます。

これらに加え、全く手数料を計算できない保険契約関係費用が掛かるとなると、保険料に占める手数料の割合が一体いくらになるのか。それが高いことだけは間違いなさそうです。

資産運用では手数料を低くおさえることが極めて重要ですから、外貨建て保険でお金を増やそうとすることは得策でないことは、以上から明らかです。

死亡保障を外貨で用意すると不確実性が増す

通常の死亡保険であれば、被保険者が亡くなった場合、日本円で保険金を受け取ります。

一方、外貨建て保険では保険金をドルなどの外貨で受け取ります(もしくはそれらを円に換算して受け取ります)。

たとえば、あなたが死亡保険金30万ドルの外貨建て死亡保険に加入しているとします。

1ドルが120円の時に死亡した場合、保険金は日本円換算で、

120円×30万ドル=3600万円(手数料等は無視)

一方、あなたが1ドル80円の時に死亡した場合、

80円×30万ドル=2400万円(手数料等は無視)

為替変動によって、死亡保険金に1200万円もの違いが出ています。

万が一に備える保障がこんなことで良いのでしょうか?

そもそも死亡保険は用意したい金額をある程度想定して入ります。

為替変動によってこれほど死亡保険金に差がでてしまってよいわけがありません。

ですから、死亡保障が欲しいのであれば、為替リスクに晒されない定期死亡保険や収入保障保険を検討するべきです。

加入方針

以上をふまえて、外貨建て死亡保険にどのように向き合うべきか。

みなさんを以下のグループに分けます。

・外貨建て死亡保険に加入していない方
・外貨建て死亡保険に加入している方

では、それぞれ見ていきましょう!

外貨建て死亡保険に加入していない方

そのまま外貨建て保険には加入しないでください。

死亡保障が欲しいのであれば、円建ての定期死亡保険や収入保障保険を検討しましょう。

加えて、インフレ対策や資産運用を行いたいのであれば、

・外国株式インデックス・ファンド
・外国債券

などによる運用を検討しましょう。

外貨建て保険に比べて、これらのほうが運用コストが低く、お金を増やせる可能性が高いです。

また、換金性も外貨建て保険より高いです

外貨建て死亡保険に加入している方

外貨建て死亡保険に加入している方はさらに以下に分けられます。

・外貨建て定期死亡保険に加入している方
・外貨建て収入保障保険に加入している方
・外貨建て養老保険に加入している方
・外貨建て終身死亡保険に加入している方

それぞれどのように対応するべきかみていきます。

外貨建て定期死亡保険に加入している方

外貨建て死亡保険に加入している方は「死亡保障+インフレ対策」を求めて、この保険に加入したと思います。

しかし、保険金額が為替変動の影響を強く受け、死亡保障が安定しないため、通常の定期死亡保険や収入保障保険に乗り換えることをおすすめします。
(そもそも死亡保障がいるかどうかも検討する必要があります)

インフレ対策を行いたい人は、為替リスクがあることを考慮して

・外国株式インデックス・ファンド
・外国債券

などを検討してください。 

ただ、どうしても外貨で家族等にお金を残す必要がある場合は契約を継続して良いでしょう。

外貨建て収入保障保険に加入している方

外貨建て収入保障保険も外貨建て定期死亡保険と同様の対応です。

外貨建て養老保険に加入している方

外貨建て養老保険に加入している方は「死亡保障+資産運用」を目的として入られたと思います。

しかし、上述したように外貨建て保険は資産運用の商品としてはコストが高く、死亡保障の商品としては保険金額が変動し不安定なのでおすすめはできません。

しかし、即解約がベストかというとそうではありません。

継続するかどうかは、利回りを計算し、他の投資商品のそれと比較して判断します(死亡保障が必要であるが、病気になってしまい、新たに保険に入れない可能性がある方はこの限りではありません)

では、実際にどのように行うか、具体例で見ていきましょう。

たとえば、Aさん(45歳)という方が、払い込み保険料の総額が86580ドルで、満期(60歳)に受け取れる保険金が100000ドル、という以下のような外貨建て養老保険に加入しているとします(実在する保険会社のパンフレットを参考にしています)。

Aさん(現在45歳)が加入している外貨建て養老保険
満期払い込み保険料総額:86580ドル
満期保険金額:100000ドル
 
死亡保険金額 : 100000ドル
契約開始から10年後の解約返戻金:32210ドル
契約開始から20年後の解約返戻金:74010ドル
保険期間 : 25年
(35歳で契約し、60歳まで)
月々の支払保険料:288.6ドル

まず、満期保険金額を確認します。ここでは、100000ドルですね。

次に、現時点の解約返戻金を確認します。

Aさんが45歳の時点でこの保険を解約する場合、解約返戻金は32210ドル。(一般的に、ある時点の解約返戻金は保険証券に記載されています)。ちなみに、この時点までに払い込んだ保険料総額は288.6ドル×12ヶ月×10年=34632ドル。

次に、満期までの期間と満期保険金と解約返戻金の差額を計算します。

ここでは、満期までの期間は15年、満期保険金-解約返戻金=100000ドル-32210ドル=67790ドル。

つまり、満期までの15年間に67790ドルが増えることになります。

ただし、これにはAさん自身が支払う保険料の積み立て分も含まれています。

次に、年利を計算します。

毎月288.6ドルを12ヶ月×15年間積み立て、67790ドルにするには年何パーセントの利回りが必要なのか。

計算すると、3.5%程度です。

今度はAさんが55歳時点で解約する場合も考えてみます。

満期保険金は100000ドル、解約返戻金は74010ドルです。

満期までの期間は5年で、満期保険金-解約返戻金=100000ドル-74010ドル=25990ドル。

5年間に25990ドルが増えます。

この場合、今後5年間の年利はおよそ20~21%

この年利はかなり高いので、やめないほうが良いでしょう。

一般的に、貯蓄型の保険は保険期間の後半になると急激に解約返戻金の額が大きくなります。

ですから、満期が近い方は継続した方が良い可能性が高いです。

と、ここまでドルベースで計算をしましたが、みなさんは基本的に日本円で保険料を支払います。

そのため、為替変動によって日本円換算でいくら増えるかはわかりません。

そこで、ドル建てでの利回りを計算して、他の商品と比較してみましょう。

例えば、米国国債(ストリップス債)と利回りを比較してみましょう。

米国国債(ストリップス債)
償還日:2040年5月15日 参考単価:82.66 年利:0.962%
償還日:2045年2月15日 参考単価:73.66 年利:1.247%
※2020年7月8日時点

途中で売却せず、満期まで持ち続けた場合、年利は0.976%です。

現在は債券の利回りがかなり低くなっているため、過去に契約した外貨建て養老保険は継続した方が良い場合が多いかもしれません。

外貨建て終身死亡保険に加入している方

「死亡保障+資産運用」を求めて入った方であれば、外貨建て養老保険と対応は基本的に変わりません。解約するかどうかは利回り次第です。

しかし、相続対策でこの保険に加入している方は継続しましょう。

詳しくは「終身死亡保険は相続対策以外で入るな」を参考にしてください。

結論

外貨建て死亡保険は、投資商品としてはイマイチであり、保障は為替の影響で大きく変動してしまうのでおすすめできません。

せいぜい、外貨建て終身死亡保険を相続税対策&外貨を残したい方が利用するくらいです。

外貨建て養老保険・終身死亡保険に加入している方は、資産運用目的ならば、ある期間までの利回りを計算して、他の投資商品と比較し見直しましょう。

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